東京地方裁判所 平成3年(ワ)13300号 判決 1999年4月28日
千葉県柏市関場町一番一〇号
原告
株式会社紀和商会
右代表者代表取締役
田中肇
東京都江戸川区南葛西三丁目二四番二号
原告
有限会社紀和貿易
右代表者代表取締役
田中肇
原告ら訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
同
篠塚力
大阪府守口市東郷通二丁目一三番地の一
被告
有限会社マルカツ
右代表者取締役
馬場保幸
右訴訟代理人弁護士
村林隆一
同
岩坪哲
同
松本司
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告は、別紙物件目録(二)及び(四)記載のスポーツカータイプ乗用自動車を販売してはならない。
二 被告は、別紙物件目録(二)及び(四)記載のスポーツカータイプ乗用自動車が、英国ロータス社又は同社の創業者コーリン・チャップマン若しくは同人の妻ヘーゼル・チャップマンの許諾を受けて製造された車両である旨の宣伝広告をしてはならない。
三 被告は、原告有限会社紀和貿易(以下「原告紀和貿易」という。)に対し、金九一〇万一〇〇〇円及びこれに対する平成七年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 争いのない事実等
1 英国の自動車製造業者であるロータス・エンジニアリング社(以下、同社及びそのグループ会社を「英国ロータス社」という。)は、一九五七年(昭和三二年)、ロータス・セブンと呼ばれる量産型のスポーツカータイプの乗用自動車(以下、単に「スポーツカー」という。)の「シリーズ1」を開発してその製造販売を開始し、その後、ロータス・セブンを「シリーズ2」、「シリーズ3」、「シリーズ4」とモデルチェンジして一九七三年(昭和四八年)まで製造販売を続けたが、同年、ロータス・セブンの製造販売を中止した。
英国ケーターハム・カーズ・セールス(以下「英国ケーターハム社」という。)は、ロータス・セブンの販売代理店であったが、一九七四年(昭和四九年)ころからスーパーセブンの名称でロータス・セブン「シリーズ3」とほぼ同一の形状をした別紙物件目録(一)及び(三)記載のスポーツカータイプ乗用自動車(以下「原告車(一)」、「原告車(二)」といい、あわせて「原告車」という。)を製造販売している。
2 英国ケーターハム社は、次の商標権を有する。
登録番号 商標登録第二〇五〇一七六号
登録日 昭和六三年五月二六日
指定商品 スポーツカー
登録商標 別紙商標目録記載のとおり(以下「本件商標」という。)
原告株式会社紀和商会(以下「原告紀和商会」という。)は、英国ケーターハム社から右商標権について範囲を全部とする専用使用権の設定を受け、平成二年六月一一日、その旨登録された。(甲一四〇、以下、枝番の記載を省略する。)
3 原告紀和商会は、遅くとも昭和五三年ころから英国ケーターハム社の製造する原告車の輸入販売を始め、昭和五七年からは、原告紀和商会が原告車を輸入し、原告紀和貿易がこれを販売している。(甲七、八、一三九、一五〇、原告ら代表者、弁論の全趣旨)
4 被告は、昭和六三年以降、別紙物件目録目録(二)及び(四)記載のスポーツカータイプ乗用自動車(以下「被告車(一)」、「被告車(二)」といい、あわせて「被告車」という。)を南アフリカのバーキンカーズ(以下「バーキン社」という。)から輸入して販売している。
また、被告は、昭和六三年一〇月ころから、各種の自動車専門雑誌において、被告車の宣伝広告をしている。(乙一五一、弁論の全趣旨)
二 本件は、原告らが、(一)原告車の形態は、それを製造している英国ケーターハム社の商品であることを示す周知の商品表示であるところ、被告は、原告車の形態と類似した被告車を販売して出所の混同を生じさせているから、被告の行為は不正競争防止法二条一項一号の不正競争に当たる、(二)本件商標は、英国ケーターハム社の商品であることを示す周知の商品表示であるところ、被告は、本件商標に類似する標章を被告車に使用して出所の混同を生じさせているから、被告の行為は同法二条一項一号の不正競争に当たる、(三)被告は、各種自動車雑誌の広告において、被告車の品質、内容について誤認させるような表示をしているから、被告の行為は同法二条一項一〇号の不正競争に当たる、と主張して、原告両名において、被告に対し、同法二条一項一号(選択的に右(一)又は(二)の不正競争)、三条一項に基づき被告車の販売の差止めを、同法二条一項一〇号(右(三)の不正競争)、三条一項に基づき請求の趣旨二項記載の宣伝広告の差止めを求めるとともに、原告紀和貿易において、被告に対し、選択的に同法二条一項一号(選択的に右(一)若しくは(二)の不正競争)又は一〇号(右(三)の不正競争)、四条に基づき損害賠償を求めた事案である。
第三 不正競争防止法二条一項一号の不正競争を理由とする請求その一
一 原告らの主張
1(一) 英国ロータス社は、世界的なレーサーとして著名であった故コーリン・チャップマンが設立した会社であり、一九五七年(昭和三二年)から一九七三年(昭和四八年)までに合計約三〇〇〇台のロータス・セブンを製造販売した。ロータス・セブンはきわめて特殊なスポーツカーであり、世界的なレーサーであったコーリン・チャップマンの会社である英国ロータス社の製造するスポーツカーとして全世界のマニアの間で人気を博し、独特な形状をしていたため、その車両を見ればそれが一見して英国ロータス社の製造するロータス・セブンであることがわかるほど有名な車となっていた。日本国内では、英国ロータス社のロータス・セブンは数少ない車であったが、マニアに人気があり、かなりの者が知っており、その評価が非常に高かった。
(二) 英国ケーターハム社は、一九七三年(昭和四八年)、英国ロータス社からロータス・セブンの製造販売に関する一切の権利を譲り受け、一九七四年(昭和四九年)ころからスーパーセブンの名称でロータス・セブン「シリーズ3」と同じ形状をした原告車の製造販売を開始した。
ロータス・セブンは、世界的に周知著名であったことから、英国ロータス社が一九七三年(昭和四八年)にロータス・セブンの製造販売を中止し、英国ケーターハム社がロータス・セブン「シリーズ3」と同し形状のスポーツカーの製造販売を開始したことは全世界の需要者の知るところとなり、一九七四年(昭和四九年)ころには英国ケーターハム社がロータス・セブン「シリーズ3」を引き継いだスーパーセブン(原告車)を製造販売していることは全世界で周知著名になった。
(三) 原告紀和商会は、一九七四年(昭和四九年)から原告車の輸入販売を開始し、「カーグラフィック」や「スクランブルカーマガジン」等の全国的な各種自動車雑誌において、原告車が英国ロータス社のロータス・セブンを引き継いだ車であることを事あるごとに宣伝広告すをとともに、右各種自動車雑誌に記事としてそれらの事実を掲載することを依頼するなど、原告車が英国ロータス社の製造販売していたロータス・セブンを正式に引き継いだスポーツカーであることを日本国内で知らせるように努めてきた。
日本国内ではすでに英国ロータス社のロータス・セブンについてかなりの者が知っており、その評価が非常に高かったが、原告紀和商会が原告車について右宣伝広告に努め、各種自動車雑誌に右記事が掲載されたことにより、原告車は、英国ロータス社のロータス・セブンを正統に引き継いだ車として日本国内でも非常に有名になり、原告車が英国ケーターハム社の製造販売するロータス・セブンの正統な承継車であることが短期間に自動車に興味を持つ需要者の間で広く知られるようになった。その結果、昭和五八年ころには、原告車の形態は、英国ケーターハム社の製造販売するロータス・セブンの正統な承継車であることを示す商品表示として広く知られるようになった。
(四) スポーツカーであるスーパーマーチン(別名シュペールマルタン)、ウエストフィールド、ドンカーブート、ランスセブン、フレイザーセブン及びカナディアンスペシャルセブンは、原告車の形態が周知の商品表示となった後に国内で販売されるようになったもので、その数も極めて少ないから、右各乗用自動車の販売により原告車の形態の識別力がなくなったとはいえない。
2(一) 原告車(一)の形態は、別紙物件目録(一)添付の写真のとおりであり、次のような構成態様を有する。なお、本項の「写真」とは、同目録(一)添付の写真を指す。
(1) 車体全体は前後に細長く、その略中央にて、前方の「ボンネット部」と、後方の屋根なし「運転席部」に分けられている(写真3、4、5、6)。
(2) 「ボンネット部」は前方に向かって、上下左右が細くなっており(写真1、5、6)、その先端部付近のボンネットは前方に向かってやや下方に垂れている(写真1、3、4、6)。また、「ボンネット部」前面には角が丸くなっている長方形状のラジエーターグリルが配されている(写真1、6)。
(3) 車体の先端付近の左右両側付近には、車体からやや離れた位置に一個づつ前輪が取り付けられており、そのため前方からフロントサスペンションが見えるようになっている(写真1、5、6)。そして、この車輪の上部には、流線型状の前輪カバーが取り付けられている(写真1、3、4、5、6)。
(4) ボンネットと前輪の間のやや上方左右に一個ずつライトが取り付けられている(写真1、5、6)。
(5) 車体後端部両側には一個ずつ後輪が、その上部には半円筒状の後輪カバーがそれぞれ取り付けられている(写真3、4、6)。
(6) 「運転席部」中の後方に左右一対の座席があり、その前方にハンドルがある(写真5)。そして、ハンドルの前方上部には略長方形状のフロントガラスとその枠がある(写真5、6)。
(7) 車体の先端部及び後端部にはバンパーがない(写真1、2、3、4)。
(8) 車体の「運転席部」の両側にはドアはなく、「運転席部」の両側はそこから乗り降りできるように他の車体両側部より低くなっている(写真3、4、6)。
(9) 車体の左側下方に円筒状のマフラーが取り付けられている(写真4、5)。
(二) 被告車(一)の形態は、別紙物件目録(二)添付の写真のとおりであり、次のような構成態様を有する。なお、本項の「写真」とは、同目録(二)添付の写真を指す。
(1) 車体全体が前後に細長く、その略中央にて、前方の「ボンネット部」と、後方の屋根なし「運転席部」に分けられている(写真3、4、5、6)。
(2) 「ボンネット部」は前方に向かって、上下左右が細くなっており(写真1、5、6)、また、その先端部付近のボンネットは前方に向かってやや下方に垂れている(写真1、3、4、6)。さらに、「ボンネット部」前面には角が丸くなっている長方形状のラジエーターグリルが配されている(写真1、6)。
(3) 車体の先端付近の左右両側付近には、車体からやや離れた位置に一個づつ前輪が取り付けられており、そのため前方からフロントサスペンションが見えるようになっている(写真1、5、6)。そして、この車輪の上部には、流線型状の前輪カバーが取り付けられている(写真1、3、4、5、6)。
(4) ボンネットと前輪の間のやや上方左右に一個ずつライトが取り付けられている(写真1、5、6)。
(5) 車体後端部両側に一個ずつ後輪が、その上部には半円筒状の後輪カバーがそれぞれ取り付けられている(写真3、4、6)。
(6) 「運転席部」中の後方に左右一対の座席があり、その前方にハンドルがある(写真5)。そして、ハンドルの前方上部には略長方形状のフロントガラスとその枠がある(写真5、6)。
(7) 車体の先端部及び後端部にはバンパーがない(写真1、2、3、4)。
(8) 車体の「運転席部」の両側にはドアはなく、「運転席部」の両側はそこから乗り降りできるように他の車体両側部より低くなっている(写真3、4、6)。
(9) 車体の左側下方に円筒状のマフラーが取り付けちれている(写真4、5)。
(三)(1) 右(二)の被告車(一)の形態の構成態様は、原告車(一)の前記(一)の形態の構成態様と同一である。また、原告車(一)と被告車(一)は、いずれも前輪カバー、後輪カバー、ノーズコーン部がプラスチック製であり、その他の車体外板がアルミニウム製であって、それらによって特別な外観を呈している。
(2) 原告車(一)と被告車(一)の各形態には、次のような相違点がある。
ア 原告車(一)はエアークリーナー吸入口が外部から見える位置にあるが、被告車(一)にはない。また、被告車(一)にはサイドミラーがあるほか、車輪ホイール中央にマークが付されているのに対し、原告車(一)にはそれらがない。
イ 原告車(一)と被告車(一)とでは、ボンネットルーバの数、テイルランプの配列、マフラーカバーの形状並びにワイパー、ノーズコーン上のマーク及びボンネットの止め金の各取付位置が相違し、運転席内の構造、トランクカバーの構造及びフロントサスペンションの構造が多少異なる。
しかし、原告車(一)にもサイドミラーは装備可能であるし、マフラーカバーはオプションであり、さまざまな形態のものがある。そして、これら以外の右相違点は、いずれも原告車(一)及び被告車(一)の形態の要部ではない。
(4) したがって、原告車(一)と被告車(一)の各形態は、類似する。
(四) 原告車(二)の形態は、別紙物件目録(三)添付の写真のとおりであり、次のような構成態様を有する。
(1) 車体全体は前後に細長く、その略中央にて、前方の「ボンネット部」と、後方の屋根なし「運転席部」に分けられている。
(2) 「ボンネット部」は前方に向かって、上下左右が細くなっており、その先端部付近のボンネットは前方に向かってやや下方に垂れており、「ボンネット部」前面には角が丸くなっている長方形状のラジエーターグリルが配されている。
(3) 車体の先端付近左右両側には、車体からやや離れた位置に一個ずつ前輪が取り付けられており、そのため前方からフロントサスペンションが見えている。そして、この車輪の上部には、半円筒状の前輪カバーが取り付けられている。
(4) ボンネットと前輪の間のやや上方左右に一個ずつライトが取り付けられている。
(5) 車体後端部の左右両側には一個ずつ後輪が、その上部には半円筒状の後輪カバーがそれぞれ取り付けられている。
(6) 「運転席部」中の後方に左右一対の座席があり、その前方にハンドルがある。そして、ハンドルの前方上部には略長方形状のフロントガラスとその枠がある。
(7) 車体の先端部及び後端部にはバンパーがない。
(8) 車体の「運転席部」の両側にはドアはなく、「運転席部」の両側はそこから乗り降りできるように他の車体両側部より低くなっている。
(9) 車体の左下方に円筒状のマフラーが取り付けられている。
(五)(1) 被告車(二)の形態は、別紙物件目録(四)添付の写真のとおりであり、右(四)と同一の構成態様を有する。また、原告車(二)と被告車(二)は、いずれも前輪カバー、後輪カバー、ノーズコーン部がプラスチック製であり、その他の車体外板がアルミニウム製であって、それらによって特別な外観を呈している。
(2) 原告車(二)と被告車(二)の各形態には、若干の相違点があるが、それらは、いずれも原告車(二)及び被告車(二)の形態の要部ではない。
(3) したがって、原告車(二)と被告車(二)の各形態は、類似している。
3 原告車(一)と被告車(一)及び原告車(二)と被告車(二)は、いずれもその形態にほとんど違いがない上、被告は、後記第五の一1のとおり、被告車が英国ロータス社からの許諾を受けて製造された車両であるかのような宣伝広告や英国ロータス社の創始者の妻ヘイゼル・チャップマンの援助に基づいて製造されている車両であるかのような宣伝広告を行っているから、需要者は、被告車が原告車と同様に英国ロータス社のロータス・セブンを正統に受け継いだ車両であると誤信するおそれが極めて高い。
4 したがって、被告による被告車の販売は、英国ケーターハム社の周知な商品表示と類似の表示を使用し、原告車と誤認混同を生じさせるおそれのある不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号)であるところ、原告紀和商会は、英国ケーターハム社の日本国内における総代理店として、国内で原告車を独占的に販売する権利を有しており、原告紀和貿易は、原告紀和商会から無償で原告車の独占的な販売権の設定を受け、原告紀和商会の輸入する原告車の販売を行っているのであるから、原告らは、被告の右不正競争行為により「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(同法三条一項)に当たる。
5 被告は、故意又は過失により右不正競争行為を行い、これにより原告紀和貿易は損害を被ったから、被告はその損害を賠償すべき義務を負う。
(一) 不正競争防止法五条一項による損害額
被告が平成元年八月から平成七年五月までの間に販売した被告車の総売上高は金三億六四〇四万円であり、その純利益の利益率は五パーセントを下らないから、被告が右期間に被告車を販売したことにより得た純利益は、右総売上高に五パーセントを乗じた金一八二〇万二〇〇〇円を下らない。
被告の右販売行為により、原告車を日本に輸出している英国ケータハム社及び原告車を国内で販売している原告紀和貿易はともに損害を被るが、両者が被る損害の割合は、原告車の販売における両者の利益の割合で算出すべきものである。原告車の販売による原告紀和貿易と英国ケータハム社の利益の割合は、ほぼ同程度であるから、損害の割合も同程度といえる。
被告の右販売行為により原告紀和貿易及び英国ケーターハム社が被った損害額は、被告が被告車を販売することによって得た利益の額と推定できる(不正競争防止法五条一項、同法附則二条)から、原告紀和貿易と英国ケータハム社は、被告の右販売行為により、少なくとも被告の得た純利益である金一八二〇万二〇〇〇円の損害を被ったことになるところ、原告紀和貿易と英国ケータハム社との損害の割合は前記のとおり同等である。
(二) 不正競争防止法五条二項による損害額
原告紀和貿易は、商品等表示の使用につき通常受けるべき金額に相当する損害額の請求をすることができる(不正競争防止法五条二項一号)。
被告は、原告車に類似する被告車を販売したことにより、原告車の商品形態を使用したことになり、その使用につき通常受けるべき金額は被告車の販売価格の五パーセントを下らない。
被告が平成元年八月から平成七年五月までの間に販売した被告車の総売上高は金三億六四〇四万円であるから、右通常受けるべき金額は右総売上高の五パーセントである金一八二〇万二〇〇〇円となる。
前記(一)のとおり、原告紀和貿易と英国ケータハム社との損害額の割合は同等であるから、原告紀和貿易は、右通常受けるべき金額である金一八二〇万二〇〇〇円の二分の一に相当する金額を損害として請求できる。
(三) よって、原告紀和貿易は被告に対し、金九一〇万一〇〇〇円及びこれに対する不正競争行為の後である平成七年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の主張
1(一) 原告車の形態が英国ケーターハム社の商品であることを示す周知の商品表示であることを否認する。
なお、原告らは、原告車の形態がロータス・セブンの正統な承継車であることを示す周知の商品表示であると主張するが、そのような表示は、不正競争防止法二条一項一号の「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器もしくは包装その他の商品表示」のいずれにも当たらない。
(二) 商品の形態が不正競争防止法二条一項一号の商品表示として保護される所以は、その形態が通常の形と異なる特徴ある形を有することにより他人の商品と識別される点にあるから、同法により商品表示として保護される商品形態は、通常の形とは異なる特徴のある形態である。したがって、乗用自動車であればごく当然に備えているべき形態であるとか、日本国内において販売されている他の乗用自動車が備えていることによって通常の形とは異なる特徴ある形ということができない形態は、原告車の商品表示とはなり得ない。
国内において販売されているスポーツカーであるスーパーマーチン(別名シュペールマルタン)、ウエストフィールド、ドンカーブート、ランスセブン、フレイザーセブン及びカナディアンスペシャルセブンは、いずれも、原告らが原告車(一)の形態として主張する前記一2(一)の(1)ないし(9)の各構成態様をすべて備えているから、これらの構成態様は、通常の形とは異なる特徴ある形ということができない。
したがって、原告車(一)の形態は、原告車の商品表示とはなり得ない。
(三) また、右各スポーツカーの宣伝広告や紹介記事が自動車雑誌に繰り返し掲載されたことにより、原告車(一)及び右各スポーツカーの形態は、昭和五八年ころには一般的なスポーツカーの形態となっていたから、原告車(一)の形態は、スポーツカーがごく一般的に備えている形態に過ぎず、原告車の商品表示とはなり得ない。
(四) 原告車(二)は前輪カバーの形状が原告車(一)と異なるのみであるから、原告車(一)の形態が右(二)及び(三)のとおり原告車の商品表示となり得ない以上、原告車(二)の形態も商品表示となり得ない。
2(一) 原告車(一)が前記一2(一)の(6)ないし(9)の構成態様を有すること、被告車(一)が前記一2(二)の(6)ないし(9)の構成態様を有すること、原告車(二)及び被告車(二)が前記一2(四)の(6)ないし(9)の構成態様を有することは認めるが、原告車及び被告車がその余の構成態様を有することは否認する。
前記一2(一)、(二)及び(四)の各(1)ないし(5)の構成態様は、特定が曖昧であり、明確かつ明瞭に原告車及び被告車の特徴を把握しているとはいいがたい。
(二) 原告車(一)と被告車(一)とが類似すること及び原告車(二)と被告車(二)とが類似することは否認する。
3 被告による被告車の販売が、被告車と原告車と間で出所の混同を生じさせるおそれがある行為であることは否認する。
被告は、被告車が英国ロータス社の許諾下に製造された車両であるとかヘイゼル・チャップマンの援助に基づくとかの宣伝広告を行っていない。また、被告の宣伝広告中にある被告車の開発経緯(英国ロータス社又は南アフリカロータス社の関与)に関する記載は客観的真実に基づくものであって虚偽ではない。
仮に、被告の宣伝広告中の記載が需要者の誤認を生じさせるとしても、それは不正競争防止法二条一項一〇号に擬律されるべき行為であって、同項一号とは関係がない。
4 仮に、被告による被告車の販売が不正競争防止法二条一項一号の不正競争であるとしても、原告らは、原告車の形態が原告らの「商品表示」ではなく、英国ケーターハム社の「商品表示」である旨主張するのであるから、右主張を前提とすれば、原告らは同法三条一項の「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれのある者」には当たらない。
5 損害に関する原告紀和貿易の主張を争う。
第四 不正競争防止法二条一項一号の不正競争を理由とする請求その二
一 原告らの主張
1 原告紀和商会は、本件商標を使用して原告車の宣伝広告に努め、これを各種自動車雑誌に掲載したことにより、本件商標は、英国ロータス社のロータス・セブンを正統に引き継いだ車両を表示するものとして日本国内で非常に有名になり、英国ケーターハム社の製造販売するロータス・セブンの正統な承継車を表示するものであることが短期間の間に自動車に興味を持つ需要者の間で広く知られるようになった。その結果、本件商標は、英国ケーターハム社の製造販売するロータス・セブンの正統な承継車であることを示す周知の商品表示となった。
2(一) 被告は、標章「SUPER7BIRKIN」を被告車に付し、標章「SUPER7BIRKIN」、「SUPERSEVENBIRKIN」及び「スーパー7バーキン」を使用して被告車の宣伝広告を行っている。
(二) 本件商標と標章「SUPER7BIRKIN」、「SUPERSEVENBIRKIN」及び「スーパー7バーキン」とは、いずれも称呼が同一であり、類似する。
したがって、右各標章を被告車自体又はその宣伝広告に使用する被告の行為は、原告車と被告車との出所の混同を生じさせるおそれがある行為である。
(三) 原告らは、被告の右行為により営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある。
3 不正競争防止法二条一項一号の「使用」とは、広く混同を招来するような形で表示を利用することをいうのであり、必ずしも商品自体に付される必要はない。
被告は、標章「SUPER7BIRKIN」を被告車自体に付し、標章「SUPER7BIRKIN」、「SUPERSEVENBIRKIN」、「スーパー7バーキン」を使用して被告車の宣伝広告を行っているから、被告車の販売は右標章を「使用した商品を譲渡」する行為に当たる。
したがって、原告らは、被告車の販売の差止めを求めることができる。
4 被告は、故意又は過失により右不正競争行為を行い、これにより原告紀和貿易は損害を被ったから、被告はその損害を賠償すべき義務を負う。その損害の額は、前記第三の一5(一)、(二)のとおりである。
よって、原告紀和貿易は被告に対し、金九一〇万一〇〇〇円及びこれに対する不正競争行為の後である平成七年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の主張
1 本件商標が英国ケーターハム社の周知の商品表示であることを否認する。
原告らは、原告車の宣伝広告に本件商標を使用していない。原告らが使用している標章は「スーパーセブンケーターハム」である。
なお、原告らは、本件商標がロータス・セブンの正統な承継車であることを示す周知の商品表示であると主張するが、そのような表示は、不正競争防止法二条一項一号の「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品表示」のいずれにも当たらない。
2 被告車の広告に「SUPER 7 BIRKIN」、「スーパー7バーキン」を数回使用したことがあることは認めるが、被告は、大部分の広告において、「バーキン7」の文字標章又は装飾文字標章を被告車の商標として使用している。
「バーキン7」の標章は被告車の商品表示として周知であるから、「SUPER 7 BIRKIN」、「スーパー7バーキン」が数回被告の広告に用いられたからといって、被告車と原告車の出所の混同が生じることはない。
3 商品の広告においてされた商標の使用が不正競争防止法二条一項一号の不正競争に当たる場合には、同法三条一項により当該商標の使用の禁止を求めることはできても、当該商品自体の販売の禁止を求めることはできない。
4 損害に関する原告紀和貿易の主張を争う。
第五 不正競争防止法二条一項一〇号の不正競争を理由とする請求
一 原告らの主張
1 被告は、英国ロータス社の何らの許諾も受けていないにもかかわらず、被告車が英国ロータス社からロータス・セブンの製造販売の許諾を得て製造された車両であるかのような宣伝広告をしたり、被告車が英国ロータス社の創始者コーリン・チャップマンの妻ヘーゼル・チャップマンにより南アフリカのバーキン社に与えられたロータス・セブンの製造許可に基づいて製造された車両であるかのような宣伝広告を行っている。このように、被告は、被告車が英国ロータス社のロータス・セブンの正統な承継車でないにもかかわらず、ロータス・セブンの正統な承継車である旨の虚偽の宣伝広告をし、一般需要者をして被告車があたかもロータス・セブンの正統な承継車であるかのごとく誤認させており、この行為は、一般需要者をして被告車の品質、内容について誤認させるものである。
したがって、被告の右行為は、被告の商品である被告車の品質、内容について誤認させる表示を行う行為に当たる。
2 原告らは、被告の右不正競争により営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある。
3(一) 被告は、故意又は過失により右不正競争行為を行い、これにより原告紀和貿易は損害を被ったから、被告はその損害を賠償すべき義務を負う。
(二) 不正競争防止法五条二項の文言からすると、同法二条一項一〇号の不正競争行為については同法五条二項の適用がない。しかし、本件のように、被告の行為が単に同法二条一項一〇号のみならず、同法二条一項一号にも該当するような場合は、少なくとも後者の関係で同法五条二項が適用される関係にあることから、同法二条一項一〇号の行為による損害賠償請求においても、同法二条一項一号の行為に適用される同法五条二項により請求することができる額の損害を被っているものと考えるべきである。
前記第三の一5(二)のとおり、被告が平成元年八月から平成七年五月までの間に被告車を販売したことにより、原告紀和貿易が通常受けるべき金額は、金九一〇万一〇〇〇円である。
よって、原告紀和貿易は被告に対し、金九一〇万一〇〇〇円及びこれに対する不正競争行為の後である平成七年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の主張
1 被告は、被告車が英国ロータス社又はヘーゼル・チャップマンの製造許可に基づき製造された車両であるとの宣伝広告をしておらず、「英国ロータス社のロータスセブンの正統な承継車である」との宣伝広告もしていない。
また、「正統な承継車」にいう「正統な」や「承継車」とは客観的に何を指すものなのか明らかでなく、これらは法的にも社会的にも熟成された概念とはいいがたい。仮に、これが英国ロータス社等からの製造販売権の付与又は意匠権、商標権等の実施等の許諾に基づき製造された車両であるとの趣旨であれば、被告が、そのような宣伝広告を行ったことはない。
さらに、仮に、被告の宣伝広告中に被告車の開発が英国ロータス社の関与下に開始された旨の記載が存在したとしても、そのような記載は自動車開発の単なる経緯又は縁由の紹介に過ぎないものであって、不正競争防止法二条一項一〇号の品質、内容についての表示ではないし、右記載は真実であって、虚偽ではない。
2 原告らが、被告の宣伝広告により「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」に当たることは争う。
3 損害に関する原告紀和貿易の主張を争う。不正競争防止法二条一項一〇号の行為については、同法五条二項の適用が明文上排除されており、その類推適用の余地はない。
第六 当裁判所の判断
一 前記第二の一の事実に証拠(甲七ないし一二五、一二八、一二九、一三九、一五三ないし一五九、乙一三、一八、二一、一〇六、一〇八、一一七、一一八、一三〇、一四六、一五二、一六〇、一六四、別紙一覧表1記載の各証拠、原告ら代表者、証人井上勝己)と弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
1(一) 英国の自動車製造業者である英国ロータス社を設立した故コーリン・チャップマンは、英国オースチン社の「オースチンセブン」を改造してレース用の特別仕様車(レーシングカー)である「マーク1」を製造し、レースに出場していた。英国ロータス社は、一九五三年(昭和二八年)ころから、故コーリン・チャップマンが「マーク1」を改良して開発した量産型のスポーツカーである「マーク6」の製造を開始し、一九五七年(昭和三二年)に「マーク6」の発展モデルとして「マーク7」、すなわち、ロータス・セブンの「シリーズ1」を開発してその製造を開始し、一九六〇年(昭和三五年)には「シリーズ2」、一九六八年(昭和四三年)には「シリーズ3」、一九七〇年(昭和四五年)には「シリーズ4」とモデルチェンジをしてロータス・セブンの製造、販売を続けたが、一九七三年(昭和四八年)、ロータス・セブンの製造、販売を中止した。
(二) 英国ロータス社がロータス・セブンの製造、販売を中止した後、同社の販売代理店であった英国ケーターハム社が、一九七三年(昭和四八年)、ロータス・セブン「シリーズ4」をモデルとし、これとほぼ同一の形状をしたスポーツカーの製造販売を開始したが、まもなくその製造販売を中止し、一九七四年(昭和四九年)ころ、ロータス・セブン「シリーズ3」をモデルとし、これとほぼ同一の形状をしたスポーツカーの製造販売を開始して、現在までその製造販売を継続している。このロータス・セブン「シリーズ3」をモデルとして製造販売されているスポーツカーが本件の原告車である。
(三) ロータス・セブン「シリーズ3」は、別紙物件目録(一)及び(三)添付の写真に写っているような形状を有するスポーツカーであった。ロータス・セブンは、ライトウエイト・スポーツカーと称するスポーツカーに属し、実用目的ではなく、専ら趣味の車として世界各地の自動車愛好家に愛好されていたが、特に「シリーズ3」が人気があった。そのため、右(二)のとおり、英国ロータス社がロータス・セブンの製造販売を中止した後、英国ケーターハム社が「シリーズ3」をモデルとしたスポーツカーの製造販売を始めたが、同社のほかにも、英国及びその他の地域の自動車メーカーがロータス・セブン「シリーズ3」をモデルとし、これと実質的に同一又は類似の形状を有するスポーツカー(以下、そのようなスポーツカーを「セブン型スポーツカー」という。)を製造、販売するようになった。
(四) ロータス・セブンについては、日本国内において、次のような自動車専門雑誌の紹介記事がある。
(1) 自動車愛好家等を読者とする月刊の自動車専門雑誌である「CARグラフィック」(後に雑誌名が「CAR GRAPHIC」となり、さらに昭和五七年七月号以降は、雑誌名が「CG CAR GRAPHIC」になった。以下「CG」という。)昭和三七年一一月号に、ロータス・セブンのロード・テストの記事が掲載された。その記事にはロータス・セブンの正面、後面、側面等から写した写真とともに、スペック、ロードテストの結果等が記載されている。(甲一五三)
(2) 「CG」昭和四五年六月号に、ロータス・セブン「シリーズ4」の紹介記事が「シリーズ4」の正面、側面等の写真とともに掲載された。(甲一五四)
(3) 「CG」昭和四六年一一月号に、「ロータス・セヴンの2つの世代」と題する記事が掲載された。その記事には、ロータス・セブン「シリーズ4」の紹介等とともにロータス・セブンの開発の歴史に関する解説等が、「シリーズ1」から「シリーズ4」までの写真付きで記載されている。(甲一五五)
(4) 「CG」昭和五四年一月号に、「ベイルートから来たスーパー・セブン」と題するロータス・セブンに関する記事が掲載された。その記事には、ロータス・セブンの開発から発展の歴史等に関する解説があり、ロータス・セブン「シリーズ1」から「シリーズ4」までの写真が付いているほか、ケーターハム・スーパーセブンの写真とこれに関する簡単な紹介もされている。(甲一五六)
(五) ロータス・セブンの開発の歴史からその製造終了後のセブン型スポーツカーの生産状況までロータス・セブンに関する様々な事項を解説した「LOTUS SEVEN-スポーツカーの原点」と題する翻訳書(発行日は昭和六〇年六月一五日)が昭和六〇年六月ころ発売された。(乙一五二)
2(一) 原告紀和商会は、昭和五三年ころから、英国ケーターハム社の製造販売する原告車を継続的に輸入し、昭和五七年までは自らこれを販売し、同年からは原告紀和貿易がこれを販売している。原告車の需要者は、ライトウエイトスポーツカーの愛好者及びこれに関心を有する者である。
原告らによる原告車の輸入販売台数は、昭和六〇年ころまでは毎年一〇台ないし二〇台位であり、その後次第に増加して平成六年までの数年間は年平均一〇〇台位であった。
3(一) 原告紀和商会は、「CG」に、次のとおり、原告車の広告を掲載した。
(1) 昭和五三年一〇月号に、一ページの半分のスペースの広告を掲載した。右広告には、広告スペースの最上部に「ロータスの名作」、「SUPER7ケーターハム」、「英国ライトウエイトスポーツカーの原点」と三段に横書きし、その下に、左斜め前方から撮影した原告車と思われるスポーツカー(幌付き)の白黒写真が載っている。
そして、昭和五三年一二月号、昭和五四年一月号、三月号、四月号にも右と同様の広告を掲載した。(甲七ないし一一)
(2) 昭和五四年六月号に、一ページの半分のスペースの広告を掲載した。右広告には、広告スペースの最上部に「ロータスの名作」、「SUPER 7 CATERHAM」、「英国ライトウエイトスポーツカーの原点」と三段に横書きし、その下に、左斜め前方から撮影した原告車と思われるスポーツカー(幌なし)の白黒写真が載っている。
そして、昭和五四年八月号、一〇月号ないし一二月号、昭和五五年一月号ないし三月号にも右と同様の広告を掲載した。(甲一二ないし一六、一一五ないし一一七)
(3) 昭和五五年四月号に、一ページの半分のスペースの広告を掲載した。右広告には、広告スペースの最上部に「ロータスの名作」、「SUPER 7 CATERHAM」、「英国ライトウエイトスポーツカーの原点」と三段に横書きし、その下に、右側方から撮影した原告車と思われるスポーツカーの白黒写真が載っている。
そして、昭和五五年五月号ないし七月号、九月号ないし一二月号、昭和五六年一月号ないし三月号にも右と同様の広告を掲載した。(甲一七、一〇六ないし一〇八、一一八ないし一二五)
(4) 昭和五六年七月号及び八月号に、一ページの広告を掲載した。右広告には、広告スペースの最上部に「ロータスの名作」、「SUPER 7 CATERHAM」、「英国ライトウエイトスポーツカーの原点」と三段に横書きし、その下に、左前方から撮影した走行中の原告車と思われるスポーツカー(幌付き)の白黒写真が大きく載っている。(甲一〇九、一一〇)
(5) 昭和五六年九月号に、一ページの広告を掲載した。右広告には、広告スペースの最上部に「ロータスの名作」、「SUPER 7 CATERHAM」、「英国ライトウエイトスポーツカーの原点」と三段に横書きし、その下に、右(4)の広告の写真と同じ写真が右(4)の広告よりも小さく載っている。
そして、昭和五六年一〇月号ないし一二月号、昭和五七年一月号ないし一二月号、昭和五八年一月号ないし七月号、九月号ないし一二月号にも右と同様の広告を掲載した。(甲八三ないし一〇五、一一一ないし一一四)
(6) 昭和五九年一月号に、一ページの広告を掲載した。右広告には、広告スペースの最上部に「ロータスの名作」、「SUPER 7 CATERHAM」、「英国ライトウエイトスポーツカーの原点」と三段に横書きし、その下に、右側方の斜め上方から撮影した原告車と思われるスポーツカーの白黒写真が載っている。
そして、昭和五九年二月号、四月号、五月号ないし一二月号、昭和六〇年一月号ないし「二月号、昭和六一年一月号、二月号にも右と同様の広告を掲載した。(甲四九、五〇、六〇ないし八二)
(7) 昭和六一年四月号に、一ページの広告を掲載した。右広告には、広告スペースの最上部に「ロータスの名作」、「SUPER 7 CATERHAM」、「英国ライトウエイトスポーツカーの原点」と三段に横書きし、その下に、左側方の斜め上方から撮影した原告車と思われるスポーツカーの白黒写真が載っている。
そして、昭和六一年五月号ないし一二月号、昭和六二年一月号ないし一〇月号、一二月号、昭和六三年二月号ないし七月号にも右と同様の広告を掲載した。(甲二九ないし三四、三八ないし四七、五一ないし五九)
(8) 昭和六三年九月号に、一ページの広告を掲載した。右広告には、広告スペースの最上部に「ロータスの名作」、「SUPER 7 CATERHAM」、「英国ライトウエイトスポーツカーの原点」と三段に横書きし、その下に、上方やや右側方寄りから撮影した原告車と思われるスポーツカーの白黒写真が載っている。
そして、昭和六三年一〇月号、一一月号にも右と同様の広告を掲載した。(甲三五ないし三七)
(9) 右(1)ないし(8)の広告には、原告紀和商会の名が記載されている前に「英国ケーターハム社日本総代理店」と記載されているが、「英国ケーターハム社日本総代理店」という記載は、右の広告スペースの最上部にある「ロータスの各作」、「SUPER 7 ケーターハム」、「SUPER 7 CATERHAM」、「英国ライトウエイトスポーツカーの原点」という記載よりもはるかに小さく、原告紀和商会の名前の記載よりも小さい。
また、右(1)ないし(8)の広告には、以上のとおり原告車と思われるスポーツカーの白黒写真が掲載されているが、いずれも一方向から撮影したものであり、右写真からは撮影対象のスポーツカーの全体形状は分からない。右(3)、(6)、(7)の広告に掲載された写真からは、撮影対象のスポーツカーを正面から見たときの形状が分からず、右(8)の広告の写真では、正面から見た形状だけでなく、側方から見たときの形状も分からない。
(二) 原告紀和商会は、自動車愛好家等を読者とする月刊の自動車専門雑誌である「スクランブル・カー・マガジン」の昭和五八年七月号ないし一二月号、昭和五九年一月号ないし四月号に、一ページの縦方向三分の一位の幅のスペースで広告を掲載した。右広告の中に、原告車の広告部分があり、そこには「スーパーセブンは当社が総輸入の代理店をしています。」などと記載した下に、右斜め上方から撮影した原告車と思われるスポーツカーの白黒写真が載っており、写真の下に「ケーターハム・スーパーセブンDOHC」と記載されている。
右の各広告には、原告紀和商会の名が記載されている前に「ケーターハム社日本総代理店」と記載されているが、「ケーターハム社日本総代理店」という記載は、原告紀和商会の名よりも小さい。また、右写真からは、撮影対象のスポーツカーの全体形状は分からず、正面から見たときの形状もはっきりとは分からない。(甲一九ないし二八)
(三) 原告紀和商会は、右(一)及び(二)の広告とは別に、「CG」昭和五五年一月号ないし七月号、九月号、一一月号、一二月号、昭和五六年一月号ないし三月号に、一ページの縦方向三分の一位の幅のスペースで広告を掲載した。右広告には、「当社はスーパーセブン日本総代理店です。」などと記載した下に、右斜め前方から撮影したスポーツカーの白黒写真が載っており、写真の下には「新車ロータス・スーパーセブン」と記載されている。
しかし、右広告には、英国ケーターハム社に関する記載は一切なく、また、右写真からは、撮影対象のスポーツカーの全体形状は分からない。(甲一〇六ないし一〇八、一一五ないし一二五)
(四) 原告紀和商会は、右(一)ないし(三)の広告とは別に、「CG」昭和六〇年四月号から昭和六三年一一月号まで、ほぼ毎号、一ページの半分のスペースで、「SUPER SEVEN CLUB」(昭和六三年二月号は「SUPER SEVEN HEAVEN」、同年三月号からは「SUPER SEVEN CATERHAM」)と題する広告を掲載した。右広告には、原告紀和商会が原告車の所有者等を組織した「スーパーセブンオーナーズクラブ」と称する同好会の紹介や走行会の年間行事予定等が掲載されており、右広告が掲載されたころは、年に一〇回近くの走行会が実施された。
右の各広告には、原告紀和商会の名が記載されている前に「ケーターハムカーセールス日本総代理店」又は「英国ケーターハム社日本総代理店」と記載されていたが、「ケーターハムカーセールス日本総代理店」又は「英国ケーターハム社日本総代理店」という記載のうち「英国ケーターハム社」又は「ケーターハムカーセールス」という記載は、右の「SUPER SEVEN CLUB」、「SUPER SEVEN HEAVEN」、「SUPER SEVEN CATERHAM」という記載よりもはるかに小さく、原告紀和商会の名前の記載よりも小さい。また、右の各広告には、スポーツカーの写真が掲載されることもあったが、その回数は少なかった。(甲二九ないし五二、五四ないし五九、六三ないし七一)
(五) 原告紀和商会は、昭和六二年三月ころ、東京駅八重州口の近くにショールームを開設し、原告車を展示した。
(六) 自動車専門雑誌に原告車に関する記事が次のとおり掲載された。
(1) 「CG」昭和五四年八月号に、「モーガン・プラス8とスーパー・セプン・スペシャル」と題する記事が掲載された。右記事は、「モーガン・プラス8」と「スーパー・セブン」という二種類のスポーツカーを紹介するものであり、「Super Sevevn Special」としてケーターパム社製スーパー・セブンを取り上げ、写真(走行中の車両全体、パワーユニット、コックピット等を撮影したもの)とともに性能、試乗の感想等を紹介している。(甲一五七)
(2) 「CG」昭和五五年九月号に、「スーパーセヴン」と題する記事が掲載された。これは、原告車の試乗記事で、走行中の車両全体を撮影した写真も掲載されている。(甲一五八)
(3) 「スクランブル・カー・マガジン」昭和五六年五月号に、「ケータハム・スーパーセヴンGTスプリント早春のオープンを愉しむ」と題する記事が掲載された。これは「ケータハム・スーパーセブンGTスプリント」(原告車)の試乗記事であり、多数の写真が掲載されている。(甲一八)
(4) 「CG」昭和五八年五月号に、スポーツカーの特集記事があり、その中で、写真(車両全体、パワーユニット、コックピット等を撮影したもの)とともに英国ケータレハム社製の「スーパーセブンTC8」(原告車)が紹介されている。(甲一五九)
(5) 「スクランブル・カー・マガジン」昭和五八年七月号に、「ケータハムスーパーセヴン・ツイン・カム」と題する記事が掲載された。これは、「ケータハムスーパーセヴン・ツイン・カム」(原告車)の試乗記事であり、多数の写真が掲載されている。(甲一九)
(6) 「スクランブル・カー・マガジン」昭和五九年四月号に、「セヴンとの生活」と題する記事が掲載された。これは、ロータス・セブンの所有者(六人)とケーターハム・スーパーセブンの所有者(一人)を、車の解説や所有者と車との関わり方などとともに紹介する記事であり、ロータス・セブンの開発から製造中止までの経過やその後のケーターハム・スーパーセブンの生産開始等に関する解説があり、ロータス・セブン及びケーターハム・スーパーマブンの写真も載っている。(甲二八)
(7) 「CG」昭和六二年六月号に、「ケイターハム スーパー・セブンGTスプリント(81年型)」と題する記事が掲載された。これは、「ケイターハム スーパー・セブンGTスプリント(81年型)」(中古車)の長期テストのレポート記事であり、車両全体や正面、パワーユニット等を撮影した写真も掲載されている。(甲四三)
(8) 右(1)ないし(5)及び(7)の各紹介記事は、原告車の性能、特徴及び車両構造等の走行に関連した事項と試乗の感想を紹介することを主たる内容とするものであり、特に英国ケーターハム社や原告車の形態上の特徴を取り上げてこれを紹介するような記事ではない。また、右(6)の紹介記事についても、特に原告車の形態上の特徴を取り上げてこれを紹介するような記事ではない。
4(一) 英国ロータス社によるロータス・セブンの生産が中止された後、英国ケーターハム社以外の自動車メーカーが製造、販売しているセブン型スポーツカーとして、「DONKERVOORT SUPER8(ドンカーブート・スーパーエイト)」、「CANADIAN SUPER7(カナディアン・スーパー7)」、「SUPER MARTIN(シュペール・マルタン又はスーパー・マーチン)」、「BIRKIN7(バーキン・セブン)」(被告車)、「WESTFIELD SEVEN(ウエストフィールド・セブン)」(後に「WESTSPORTS(ウエストスポーツ)」となった。)、「FRASER CLUBMAN(フレイザー・クラブマン)」、「MITUOKA ZERO1(ミツオカ・ゼロワン)」がある。
(二)(1) ドンカーブート・スーパーエイトは、オランダにあるドンカーブート社が一九七七年(昭和五二年)ころから製造販売しているもので、ロータス・セブン「シリーズ3」をモデルとし、これを少し大きくしたものであり、原告車と類似した形状をしている。日本では、遅くとも昭和五八年から輸入、販売されていた。
(2) カナディアン・スーパー7は、カナダで、ロータス・セブン「シリーズ3」をモデルとして製造されたもので、原告車と類似した形状をしている。日本では、昭和六〇年ころには、輸入、販売されていた。
(3) シュペール・マルタン(スーパー・マーチン)は、フランスにあるTTMマルタン・プロダクション社が、一九八六年(昭和六一年)ころから製造販売しているもので、ロータス・セブン「シリーズ3」をモデルとしており、原告車と類似した形状をしている。日本では、遅くとも昭和六三年から輸入、販売されている。
(4) ウエストフィールド・セブンは、英国のウエスト・フィールド・スポーツカーズ社が一九八六年(昭和六一年)より前から製造販売しているもので、ロータス・セブン「シリーズ3」をモデルとしている。英国において、英国ケータハム社が英国ウエスト・フィールド・スポーツカーズ社等を被告としてウエストフィールド・セブンの製造販売の差止め等を求めて訴訟を行い、両社は一九八八年(昭和六三年)一月に和解した。その後、英国ウエスト・フィールド・スポーツカーズ社は、ウエストフィールド・セブンの形状を一部変更し、車体のノーズコーン部をプラスチックで造りその他の部分をアルミニウムで造っていたのを、車体全体をプラスチックで造るようにするなどするようになった。ウエストフィールド・セブンは、右形状変更前に原告車と類似していたばかりでなく、右形状変更後においても、車全体から受ける印象は、原告車と類似している。ウエストフィールド・セブンは、右形状変更前から日本に輸入されており、形状変更後においても、日本において輸入販売されている。
(三) 右(一)のセブン型スポーツカーについて、自動車愛好家等を読者とする自動車専門雑誌又は書籍に、次のとおり、紹介記事が掲載された。
(1) 「スクランブル・カー・マガジン」昭和六一年一月号に、「ドンカーブート・スーパーエイト」の試乗記事が掲載された。この記事には、「ドンカーブート・スーパーエイト」を正面、側面、斜め前方等から撮影した写真が載っている。(乙一一七)
(2) 「CG」昭和六一年一〇月号に、「“スーパーセヴン”は麻薬?」と題する記事が掲載された。この記事は、「ケーターハム・スーパーセブン」、「ドンカーブート・スーパーエイト」及び「カナディアン・スーパー7」について、走行中等の車両の写真とともに、スペック、試乗の感想等を紹介するものである。(乙一三〇)
(3) 昭和六二年に発行された「外国車ガイドブック 1987」にスーパーマーチン及びドンカーブート・スーパーエイトが写真付きで紹介された。(乙一一八)
(4) 月刊「カー・マガジン」昭和六三年四月号に、「SUPER MARTIN(シュペール・マルタン)」についての紹介記事が掲載された。(乙一四六)
(5) 「I LOVE SEVEN」と題する書籍(平成三年五月一日初版発行)において、セブン型スポーツカーとして、「SUPER MARTIN(シュペール・マルタン、別名スーパー・マーチン)」、「BIRKIN SEVEN(バーキン・セブン)」(被告車)、「DONKERVOORT SUPER EIGHT(ドンカーブート・スーパーエイト)」及び「WESTFIELD SEVEN(ウエストフィールド・セブン)」が取り上げられ、各車の製造会社、スペック、試乗の感想、特徴等が記載されている。また、各車の全体を撮影した写真も掲載されている。(乙一六〇)
(6) 月刊「特選外車総特集CHARGE」平成四年三月号に、「究極のリアルスポーツ『ロードゴーイング・フォーミュラ』に失神寸前!」と題する記事が掲載された。この記事においては、「硬派なリアルスポーツといえば真先に名前が上げられるのがスーパーセブンであろう。エンスーでなくとも誰もが一度はそのステアリングを握ってみたいと切望するであろう。今回はそんなロードゴーイング・フォーミュラ『スーパーセブン』をフルラインナップで紹介しよう。」として、「CATERHAM」「DONKERVOORT」「BIRKIN7」「WESTFIELD」の名が挙げられ、セブン型スポーツカーである「CATERHAM SUPER SEVEN BDR COSWORTH」(原告車(一))、「DONKERVOORT SUPER8A TURBO」、「BIRKIN SEVEN」(被告車)及び「WESTFIELD SI」の四台について、コックピット、パワーユニット、車両全体等を撮影した写真とともに、スペック、生産の由来、性能・特徴、試乗の感想などが記載されている。(乙一三)
(7) 月刊「くるまにあ」平成四年一二月号に、「憧れのスーパー・セブンで本格エンスー・ライフに浸る!死ぬほど楽しめ!極楽セブン生活。」と題する記事が掲載された。これは、「スポーツカー・ファンなら誰でもが憧れるクルマ、それがスーパーセブンだ!そこで今月号の巻頭特集は、たっぷり、どっぷりエンスー生活に浸るためのスーパーセブン極楽生活のすすめを完壁ガイド。これ1冊でセブンのすべてがわかる!」として、ロータス・セブン及びセブン型スポーツカーを紹介する記事である。この中で、セブン型スポーツカーとして、「SUPER MARTIN(シュペール・マルタン)」、「WEST SPORTS(ウエストスポーツ)」、「BIRKIN7(バーキン7)」(被告車(二))、「DONKERVOORT SUPER8A(ドンカーブート・スーパーエイトA)」、「CATERHAM SUPER SEVEN(ケーターハム・スーパー・セブン)」(原告車(一))が取り上げられ、各車の生産の由来、スペック、性能・特徴等が、各車の車両全体、「コックピット、パワーユニット等の写真とともに記載されている。(乙二一)
(8) 月刊「カー・マガジン」平成五年二月号に、「ピュア・スポーツの源流」と題する記事が掲載された。これは、「ケーターハム・スーパー・セブンBDRコスワース4バルブ・スペシャル」、「ウエストスポーツSⅡ」、「バーキン7COSMABDR」及び「フレイザー・クラブマン」の四台のセブン型スポーツカーを紹介する記事であり、各車をオリジナルのロータス・セブンを発展させたスポーツカーと位置づけ、各車のスペック、バイヤーズガイド、写真(車両全体、パワーユニット、コックピット等)、各車の生産の由来、性能・特徴、試乗の感想等が記載されている。(乙一八)
(9) 「CG」平成五年六月号に「セヴン・ファミリーの義兄弟」と題する記事が掲載された。これは、「ロータスMK7を源流とするセブンの世界には、ケイターハム・スーパーセブンを筆頭として、多くの似たもの同士がある。どれもあのセブン独自のプロポーションとコンセプトを受け継いでおり、その中からどれかを選べといわれても、迷うどころか判断の材料にさえ困る。そこで、それらのうち3台を一堂にそろえてみることにした。」として、セブン型スポーツカーの中の「BIRKIN SEVEN」、「WESTSPORTS SⅡ」及び「FRASER CLUBMAN」の三台を取り上げ、そのスペック、性能・特徴、試乗の感想等を写真とともに紹介している。(乙一〇六)
(10) 「特選外車総特集チャージ」平成八年七月号に、「軽快!豪快!爽快!ライトウエイトで自由を手に入れる!」と題する記事が掲載された。これは、「究極のライトウエイトと言えば「スーパーセブン」がナンバー1である。走るために贅沢装備を廃し、硬派一徹を貫き通している。そこで、ロータスの血統を受け継ぐケーターハムを中心に、数々のスーパーセブン・スタイルを持つアグレッシブな走り屋を徹底的にテストする。」「高次元の走りを追求し、快適装備などを一切廃し軽量化を図ったモデルがスーパーセブンである。ライトウエイト・スポーツの原点とも言えるモデルはロータスに端を発する。その後ケーターハムを中心に数々のスーパーセブン系モデルが誕生することとなった。ロードゴーイング・フォーミュラとなるスーパーセブンの奏でる刺激的なエキゾースト、迫力の走りを存分に堪能し、それぞれの魅力を探っていこう。」として、「CATERHAM SUPER SEVEN(ケーターハム・スーパーセブン)」(原告車)、「SUPER SEVEN BIRKIN」(スーパーセブン・バーキン)」(被告車)、「WESTSPORTS(ウエストスポーツ)」、「MITUOKA ZERO1(ミツオカ・ゼロワン)」について、斜め前方等から撮影した写真とともに、スペック、生産の由来、性能・特徴、試乗の感想等を紹介するものであり、右四台のほかにも、「DONKERVOORT SUPER8(ドンカーブート・スーパーエイト)及び「SUPER MARTIN(シュペール・マルタン)についても、斜め前方等から撮影した写真とともに性能・特徴等を紹介している。(乙一六四)
(四) 別紙一覧表1のとおり、自動車愛好家等を読者とする同一覧表1の雑誌名欄記載の自動車専門雑誌に、同一覧表1の広告主欄記載の広告主により同一覧表1の車種欄記載のセブン型スポーツカーの広告が掲載された。
右広告の大部分には、広告の対象である各セブン型スポーツカーを斜め前方等から撮影した写真が載っている。
二 不正競争防止法二条一項一号の不正競争を理由とする請求その一について
1 商品の形態は、本来、商品の美観や機能の発揮、生産効率の向上等を考慮して適宜選択されるものであり、直接的には商品の出所を表示することを目的とするものではないが、その商品の形態が同種の商品の中にあって独自の特徴を備え、あるいは一定の商品形態が長期間又は短期間でも強力な宣伝等が加わって使用された結果、当該形態自体が二次的にその商品の出所表示機能を備え、需要者に広く認識される場合があり、そのような商品の形態は不正競争防止法二条一項一号にいう周知の商品表示に当たるものと解される。
2 原告らは、ロータス・セブンが世界的に周知著名であったことから、英国ケーターハム社がロータス・セブンを引き継いだスーパーセブン(原告車)を製造販売していることが世界的に周知著名になり、国内においても、原告紀和商会がその旨の宣伝広告をしたことにより、原告車の形態が英国ケーターハム社の製造販売するロータス・セブンの正統な承継車であることを示す周知の商品表示となった旨主張する(前記第三の一1(一)ないし(三))ので、原告らの右主張について判断する。
(一) 英国ロータス社の製造販売に係るロータス・セブンは、その製造が中止される一九七三年(昭和四八年)までの間において、前記一1(四)(1)ないし(3)のとおり日本において紹介されたことがあるものの、他に日本の雑誌等において紹介されたことを認めるに足りる証拠はない上、証拠(原告代表者)と弁論の全趣旨によると、これまでに日本に輸入された英国ロータス社の製造販売に係るロータス・セブンの台数は、一〇〇台に満たないことが認められるから、昭和四八年ころに、ロータス・セブン「シリーズ3」の形態が日本において周知著名であったとは到底認められないし、その後昭和五三年ころまでの間に周知著名になったとも認められない。
(二) 前記一認定のとおり、原告紀和商会は、昭和五三年ころから原告車を継続的に輸入し、当初は自らこれを販売し、昭和五七年からは原告紀和貿易がその販売を行っており、また、昭和五三年から昭和六三年まで自動車愛好家等を読者とする自動車専門雑誌にほぼ毎月原告車の広告を掲載し、その広告中には原告車と思われる写真を掲載して原告車の宣伝広告に努めてきたことが認められ、さらに、原告紀和商会は、昭和六二年三月ころショールームを開設し、原告車を展示しているほか、原告車の所有者等からなる同好会を組織し、年間一〇回近く走行会を開催しており、このような活動も原告車について一定の広告効果を有するものであると認められる。
しかし、前記一認定のとおり、原告紀和商会による原告車の販売台数は、昭和五三年ころから昭和六〇年ころまでは毎年一〇台ないし二〇台位であったから、昭和五八年までの累計販売台数は多くても一二〇台位であり、原告車の需要者がライトウエイトスポーツカーの愛好者又はこれに関心を有する者であることを考慮しても極めて少ないといえる。昭和六〇年以降は次第に右販売台数が増加し、平成六年までの数年間は年間一〇〇台位であり、昭和五八年当時の累計台数と比較すれば多くなっているといえるが、年間一〇〇台位という販売台数は、右のような原告車の需要者の点を考慮しても多いとまでは認められない。
また、前記一3(一)認定の原告紀和商会の原告車に関する広告を見た場合、これを見た者が注目するのは、「ロータス」、「7」、「英国ライトウエイトスポーツカー」といった文字であると考えられる。大部分の広告において、英国ケーターハム社については、広告スペースの最上部に「CATERHAM」と英語で記載されているほか、小さい文字で「英国ケーターハム社日本総代理店」と記載されているのみであるから、前記一3(一)認定の原告紀和商会の原告車に関する広告を見た者は、その広告に記載されている車がロータス・セブンと似た車であることは認識するものの、それが英国ケーターハム社の製造販売に係るものであることを直ちに認識するとはいえない。
さらに、前記一3(一)認定の原告紀和商会の原告車に関する広告の内容や前記一4認定の事実からすると、前記一3(一)認定の原告紀和商会の原告車に関する広告において、原告車の形態については、原告車がセブン型スポーツカーの特徴的な形状をしていることが分かる程度であり、それ以上に原告車がいかなる形態上の特徴を有するかは分からないものと認められる。
前記一3(二)ないし(四)認定の原告紀和商会の原告車に関する広告や前記一3(六)認定の雑誌の記事についても、前記一3(一)認定の原告紀和商会の原告車に関する広告と同様に、原告車がセブン型スポーツカーの特徴的な形状をしていること以上にいかなる形態上の特徴を有するかを認識させるものではなく、また、原告車が英国ケーターハム社の製造販売に係るものであることを直ちに認識させるものとはいえないものも少なくない。
なお、原告らは、原告紀和商会は昭和四九年に英国ケーターハム社から原告車を二台輸入し、以後その輸入販売をしている旨主張し、原告ら代表者の陳述書(甲一三九)には、右主張に沿う記述があるほか、原告ら代表者は、代表者尋問において、その旨の供述をする。しかし、これを裏付ける証拠はない上、前記一認定のとおり、原告紀和商会による原告車の広告は昭和五三年以降に継続して行われているのに対し、昭和五二年以前の唯一の広告である「CAR GRAPHIC」昭和五一年三月号(甲六)を見ると、「スーパーセブンについては、輸入経験豊富な当社へおといあわせ下さい」と記載した下に、正面やや右から撮影したスポーツカーの写真があり、その下に「新車ロータス・スーパーセヴン」と記載されており、現実に右写真のスポーツカーを販売しているような広告内容になっておらず、英国ケーターハム社の名も出ていないことからすると、右陳述書の記述及び原告ら代表者の供述によって直ちに原告らの右主張を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。また、仮に、原告紀和商会が昭和四九年に英国ケーターハム社から原告車を二台輸入した事実があったとしても、右で述べたところからすると、その後昭和五二年までの間に継続的に原告車の輸入販売をしていたと認めることはできない。
(三) 他方、前記一認定の事実によると、ロータス・セブン「シリーズ3」をモデルとするセブン型スポーツカーは原告車のほかにも被告車を含めて複数のものが製造、販売されており、原告車を含めた各セブン型スポーツカーの一見した形状はいずれも類似していること、原告車以外のセブン型スポーツカーは、外国では、昭和五八年よりも前から存在したが、日本には、遅くとも昭和五八年には輸入され、広告されていること、その後、日本には、原告車以外の複数のセブン型スポーツカーが輸入販売され、多くの広告がされているほか、雑誌の記事で原告車を含めてセブン型スポーツカーという類型の車として取り上げられていること、以上の事実が認められる。また、前記一認定のセブン型スポーツカーに関する紹介記事や広告の状況からすると、遅くても昭和六三年当時にはライトウエイトスポーツカーに興味を持つ者には、複数のセブン型スポーツカーが輸入販売されていることが知られていたものと推認できる。
(四) 以上述べたところに照らすと、昭和五三年ころから昭和五八年ころまで日本国内で販売されていたセブン型スポーツカーが原告車だけであったとしても、昭和五八年までの原告車の輸入販売台数は、前記のとおり少なかったこと、原告車の輸入販売台数は昭和六〇年から次第に増加し、原告紀和商会は雑誌広告以外にも前記のような広い意味での広告活動を行っていたが、昭和五八年からは、原告車以外の複数のセブン型スポーツカーが日本国内において輸入販売され、それらについて多くの広告がされ雑誌の記事で取り上げられたこと、原告紀和商会は、原告車について多くの広告を行い、また原告車は雑誌の記事で取り上げられているが、それらは原告車がセブン型スポーツカーであることを強く印象づけるものの、必ずしもそれ以上に製造者や形態について原告車独自のものを印象づける内容とはなっていないこと、原告車も雑誌の記事においてセブン型スポーツカーの一種として取り上げられているに過ぎないこと、以上の事実が認められるのであるから、被告が被告車の販売を開始した昭和六三年当時、原告車の形態が需要者の間において英国ケーターハムが製造販売する車であることを識別するものとして広く知られていたとは認められず、その後の時点においても、原告車の形態が需要者の間において英国ケーターハムが製造販売する車であることを識別するものとして広く知られていたとは認められない。そうすると、原告車の形態が英国ケーターハム社の周知の商品表示であるということはできないというべきである。
(五) なお、原告らは、原告車の形態がロータス・セブンの正統な承継車であることを示す英国ケーターハム社の周知の商品表示であるとも主張するが、不正競争防止法二条一項一号は、他人の周知な商品又は営業表示と同一又は類似する表示を使用して需要者を混同させることを不正競争とするものであり、同号の商品表示とは他人の商品であることを示す表示、すなわち、商品の出所を識別する手段としての表示をいうものであるところ、原告車の形態が需要者の間において英国ケーターハム社が製造販売する車であることを識別するものとして広く知られていたとは認められない以上、原告車の形態がロータス・セブンの正統な承継車であることを示すものであることが広く知られていたとしても、そのことだけでは商品の出所を識別することはできないから、原告車の形態がロータス・セブンの正統な承継車であることを示すものであることが広く知られていたかどうかにかかわりなく、原告車の形態が英国ケーターハム社の周知の商品表示であるということはできないというべきでおる。
3 したがって、その余の点につき判断するまでもなく、不正競争防止法二条一項一号の不正競争を理由とする請求その一は理由がない。
三 不正競争防止法二条一項一号の不正競争を理由とする請求その二について
原告らは、右請求に関し、本件商標は英国ケーターハム社の製造販売するロータス・セブンの正統な承継車であることを示す周知の商品表示であり、被告が右商標に類似する標章「SUPER7BIRKIN」、「SUPERSEVENBIRKIN」及び「スーパー7バーキン」を被告車自体又はその宣伝広告に使用する行為は不正競争防止法二条一項一号の不正競争に当たるところ、右類似標章を被告車自体に付し、又はそれを使用して宣伝広告を行い、被告車を販売することは、同号の「使用した商品を譲渡」する行為に当たるから、原告らは、同法三条一項により被告車の販売自体の差止めを求めるとともに、損害賠償を求める旨主張する。
しかし、前記一認定の事実によると、原告紀和商会が原告車の広告で使用していた商標は、「SUPER7ケーターハム」、「SUPER7CATERHAM」、「ケーターハム・スーパーセブン」といったもので、「ケーターハム」又は「CATERHAM」が付されており、原告車の広告において、「スーパーセブン」(本件商標)が単独で商標として使用されていたとは認められない。
前記一認定の事実によると、自動車愛好家を対象とする雑誌の記事において、「スーパーセブン」は、ロータス・セブン及びセブン型スポーツカーを総称する表示として用いられており、原告車は、「ケーターハム」又は「CATERHAM」を付すことにより、他のセブン型スポーツカーと区別されているものと認められる。
そして、他に原告車を表示するものとして、「スーパーセブン」(本件商標)が使用されていたことを認めるに足りる証拠はないから、本件商標が需要者の間において英国ケーターハム社の製造販売する車両を表示するものとして現在はもとより過去においても広く知られていたとは認められない。
なお、本件商標が需要者の間において原告車であることを識別するものとして広く知られていたとは認められない以上、本件商標がロータス・セブンの正統な承継車であることを示すものであることが広く知られていたとしても、そのことだけでは商品の出所を識別することはできないから、本件商標がロータス・セブンの正統な承継車であることを示すものであることが広く知られていたかどうかにかかわりなく、本件商標が英国ケーターハム社の周知の商品表示であるということはできないというべきである。
したがって、不正競争防止法二条一項一号の不正競争を理由とする請求その二は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
四 不正競争防止法二条一項一〇号の不正競争を理由とする請求について
1 不正競争防止法二条一項一〇号の「商品の品質、内容について誤認させるような表示をする」とは、その商品の品質、内容そのものを直接的に表示して誤認させるような場合だけでなく、商品の品質、内容についての客観的な評価を左右するような具体的事実を表示して間接的に品質、内容を誤認させるような場合をも含むものであるが、単に商品についての主観的な評価を表示するに過ぎない場合は商品の品質、内容を誤認させるような表示には当たらないと解される。
そこで、被告が、右に述べたような意味で被告車の品質、内容を誤認させるような表示をしているかどうかについて判断する。
2 別紙一覧表2記載の各証拠と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(一) 被告は、別紙一覧表2の雑誌名欄記載の自動車専門雑誌に被告車の広告を掲載した。
(二) 右(一)の広告(以下「本件広告」という。)中には、次のような記載のある広告がある。
(1) 「正統」、「正統セブン」、「正統バーキン」又はこれらに類する記載のある広告
<1> 「正統オリジナルセヴン-BIRKIN7」(乙一六、一七、三五、四一)
<2> 「正統BIRKIN7」(乙一六、一七、三五、四一)
<3> 「正統セブンとキットカーセブン」(乙二一、三〇、三四、四六)
<4> 「正統バーキンセヴンの主張」(乙三〇、三四)
<5> 「正統セブンの名に値する伝統と実力」(乙四六)
<6> 「本物が正統を認めたからです。」(乙二四、二五、二六、二七、三八、四四、四五)
<7> 「栄光の歴史。コーリン・チャップマンの意を継ぐ、正統セヴン」(甲一四六ないし一四九)
(2) 「チャップマンの血統」との記載のある広告
<1> 「チャップマンの血統、バーキン7-感動、再び」(乙五、二〇、二三、二八、三九)
<2> 「チャップマンの血統、バーキンセヴン」(乙九、二六、二七、四四)
<3> 「チャップマンの血統」(乙一九)
(3) 「ロータスの名作」、「歴史が甦る」等の記載のある広告
<1> 「ロータスの名作 BIRKIN7」(乙一一、二九)
<2> 「ロータス49の歴史が、いま甦ります。」(乙九、一九、二四、二五、二六、二七、三八、四四、四五)
<3> 「天才コーリン・チャップマンのスピリットが甦ります。」(乙五、二〇、二三、二八)
(4) 「ロータスセブンとして生まれた」等の記載のある広告
<1> 「バーキンセブンはキットカーではありません。1983年に南アフリカ、ロータスセブンとして生まれて以来、同じ部品、同じ製造工程で生産されています。」(乙二一、三六、四六)
<2> 「バーキン7はレプリカではありません。南アフリカロータス社の手で改良された正規のモデルです。1978年モデルとしてリプロダクションされた正統モデルを継続生産しているのです。」(乙五、二〇、二三、二八、三九)
<3> 「元南アフリカ、ロータスセブンとして生まれたバーキンセブン」(乙三六)
<4> 「オリジナルセヴン」(乙一六、一七、三五、四一)
(5) 「ファミリーネームを『バーキン7』に変えた」との記載のある広告
<1> 「ロータスの正統モデルとして、世界の評価を与えられたバーキンは、現在も、南アフリカの当時の工場で、ファミリーネームを『バーキン7』と変えて製造され続けています。」(甲一四六ないし一四九、乙五、二〇、二一、二三、二八、三四、三六、三九、四六)
<2> 「ジョン・バーキン・ワトソンによって、同じ工場から同じロータス・スーパー7がファミリーネームをバーキン7として・・・出荷され続けています。」(乙三、一一、二九)
(6) ヘーゼル・チャップマンに関する記載のある広告
<1> 「バーキンセブンはキットカーではありません。1983年、ミセスヘーゼル・チャップマンのもとサウスアフリカでロータスセブンとして誕生して以来完成車を製造するメーカーとして認定され、現在も生産を継続しています。」(乙三〇、三一)
<2> 「1983年。亡きコーリン・チャップマンの意志を継ぎ当時のF-1、チーム・ロータスの総帥ヘイゼルチャップマン率いる南アフリカ・ロータス社によって誕生した南アフリカ、ロータス・スーパーセヴンは、」(甲一四六ないし一四九)
<3> 「1978年、ヘイゼル・チャップマンは南アフリカのジョン・バーキン・ワトソンにロータスの製造許可を正式に与え、スーパーセヴンの生産が開始されます。ファミリーネーム「バーキンセヴン」は、現在も、南アフリカの当時の工場で正統モデルとして生産が継続され続けています。」(乙一六、一七、三五、四一)
3(一) 原告らは、被告が、(1)被告車はロータス・セブンの「正統モデル」あるいは「正統セブン」である、(2)被告車は「チャップマンの血統のもの」である、(3)被告車は「ロータスの名作」あるいは「ロータスの歴史的名作が甦ったもの」である、(4)被告車は「オリジナルを承継したもの」である、(5)被告車は「スーパーセブンがファミリーネームを変えたもの」であるといった趣旨の内容の広告をすることにより、被告車があたかも英国ロータス社からロータス・セブンの製造販売の許諾を得て製造された車両であるかのような広告をしている旨主張する。
(二)(1) 前記2(二)(1)認定のとおり、本件広告中には、「正統」、「正統セブン」、「正統バーキン」又はこれらに類する記載のあるものがあるところ、「正統」とは、「正しい系統。正当の血統。」といった意味を有する言葉であるが、そのことから右記載がこれに接した需要者をして被告車が英国ロータス社の製造販売の許諾を受けて製造された車両であると誤信させるような表示であるとは認められない。また、単に「正統」等というだけでは被告車についての主観的な評価に過ぎず、品質、内容についての客観的な評価を左右するような具体的な事実を表示するものではないから、被告車の品質、内容を誤認させるような表示であるとは認められない。
(2) 前記2(二)(2)認定のとおり、本件広告中には、「チャップマンの血統」との記載のあるものがある。「血統」とは「血のつながり。血すじ。」といった意味を有する言葉であるが、本件広告は車についての広告であるから、右記載は、比喩的に被告車が「チャップマンの血統」に属する車である旨を表現したものと認められるところ、前記一認定の事実に前記2(一)認定の被告車の広告状況を総合すると、平成二年ころには、被告車がロータス・セブンをモデルとして製造された複数のセブン型スポーツカーの一つであることが需要者の間に知られていたものと認められるから、結局右記載は、被告車がチャップマンの製造したロータス・セブンをモデルとして製造されたセブン型スポーツカーの系統に属する車であるといった程度の意味に理解されるものと認められる。したがって、右記載が需要者をして被告車が英国ロータス社の許諾を受けて製造されたものであると誤認させる表示であるとは認められないし、その他の点で被告車の品質、内容を誤認させるような表示であるとは認められない。
(3) 前記2(二)(3)認定のとおり、本件広告中には、「ロータスの名作」、「歴史が甦る」、「スピリットが甦る」といった記載のあるものがあるが、右のとおり、被告車は複数のセブン型スポーツカーの一つであることが知られていたことからすると、右記載が、これに接した需要者をして被告車が英国ロータス社の製造販売の許諾を受けて製造された車両であると誤信させるような表示であるとまでは認められないし、また、被告車の品質、内容そのもの又はその客観的な評価を左右するような事実を表示するものとも認められない。
(4) 前記2(二)(4)認定のとおり、本件広告中には、「南アフリカ、ロータスセブンとして生まれた」等の記載のあるものがある。右記載が、これに接した需要者をして被告車が英国ロータス社の製造販売の許諾を受けて製造された車両であると誤信させるような表示であるとまでは認められない。また、右記載のうち、「バーキンセブンはキットカーではありません。」(<1>)の部分は、証人井上勝巳の証言によると事実であると認められる。
証拠(乙五二ないし五五)と弁論の全趣旨によると、バーキン社(代表者は、ジョン・バーキン・ワトソン)は、一九八三年(昭和五八年)ころ、南アフリカにおいて英国ロータス社の製品の販売業務を行っている南アフリカロータス社(代表者はジョン・ケネス・ハットフィールド)からロータス・セブン「シリーズ3」のレプリカの製造の許諾を受け、「クラシック・スーパーセブン」の名称でその製造を始めたこと、「クラシック・スーパーセブン」は基本的に「シリーズ3」と同一であるが、南アフリカロータス社の指示により、一部変更を加えた部分もあること、バーキン社と南アフリカロータス社は、一九八五年(昭和六〇年)五月九日、バーキン社が製造する「クラシック・スーパーセブン」を独占的に南アフリカロータス社に販売する旨の契約を結んだこと、右契約が失効した後、バーキン社は「クラシック・スーパーセブン」と同一の車を「BIRKIN7(バーキンセブン)」の名称で製造し、販売していること、これが被告の輸入、販売する被告車であること、以上の事実が認められる。
右認定の事実によると、被告車は、バーキン社が一九八三年(昭和五八年)ころから「クラシック・スーパーセブン」の名称で製造していた車と同一の車であり、しかも「クラシック・スーパーセブン」は南アフリカロータス車の製造許諾のもと、ロータス・セブン「シリーズ3」のレプリカとして製造されていたのであるから、本件広告中の前記記載のうち、前記2(二)(4)の<1>、<3>及び<4>は事実に反するものとは認められない。また、<2>の記載は、全体として、バーキン7は、南アフリカロータス社の手で改良された正規のモデルであることを表しているものと解されるところ、右認定のとおり、被告車の元となった「クラシック・スーパーセブン」はロータス・セブン「シリーズ3」を基本とし、南アフリカロータス社の指示により一部変更を加えたものであるから、右記載は、「1978年」という部分を除いては、事実に反するものとは認められないし、「1978年」というのは時期が異なるものの、他の部分の記載が事実に反するものとは認められないことからすると、それだけで被告車の品質、内容を誤認させる表示であるとは認められない。
したがって、本件広告中の右記載は、被告車の品質、内容を誤認させるような表示であるとは認められない。
(5) 前記2(二)(5)認定のとおり、本件広告中には、「ファミリーネームを『バーキン7』に変えた」との記載のあるものがあるが、右(4)で判示したところに照らすと、「南アフリカの当時の工場で、ファミリーネームを『バーキン7』と変えて製造され続けています。」(<1>)及び「同じ工場から同じロータス・スーパー7がファミリーネームをバーキン7として・・・出荷され続けています。」(<2>)の記載は事実に反するものとは認められない。
したがって、本件広告中の右記載は、被告車の品質、内容を誤認させるような表示であるとは認められない。
(三) 原告らは、被告が、被告車がヘーゼル・チャップマンからロータス・セブンの製造販売の許諾を得て製造された車両であるかのような広告をしている旨主張する。
前記2(二)(6)認定のとおり、本件広告中には、ヘーゼル・チャップマンに関する記載のあるもの(<1>ないし<3>)がある。
<1>のうち、「ミセスヘーゼル・チャップマンのもと」との部分を除いた部分の記載が事実に反するものではないことは前示のとおりであり、<2>のうち、「亡きコーリン・チャップマンの意志を継ぎ当時のF-1、チーム・ロータスの総帥ヘイゼルチャップマン率いる」との部分を除いた部分の記載が事実に反するものではないことは前示のとおりであり、<3>のうち、「1978年、ヘイゼル・チャップマンは南アフリカのジョン・バーキン・ワトソンにロータスの製造許可を正式に与え、」との部分を除いた部分の記載が被告車の品質、内容を誤認させるような表示であるとは認められないことは前示のとおりである。
右の「ミセスヘーゼル・チャップマンのもと」との部分、「亡きコーリン・チャップマンの意志を継ぎ当時のF-1、チーム・ロータスの総帥ヘイゼルチャップマン率いる」との部分、「1978年、ヘイゼル・チャップマンは南アフリカのジョン・バーキン・ワトソンにロータスの製造許可を正式に与え、」との部分は、コーリン・チャップマンの妻であるヘーゼル・チャップマンの関与のもとに製造が開始された旨を述べているのであるが、そのような事実は、被告車の品質、内容を直接的に表示するものではないし、また、そのような事実があるからといって、直ちに被告車の品質、内容に具体的な差異が生じるものとも認められないから、結局、右記載の右部分は、被告車の品質、内容を誤認させるような表示であるとは認められない。
(四) 証拠(甲一四六ないし一四九)によると、本件広告中には、「当社販売の正統バーキンセヴンは、ロータス社との契約のもと製作された唯一現存する新車で購入できる正統セヴンです。・・・お買い求めの節は、正統バーキンセヴンと御指名の上御購入下さい。」との記載のある広告があることが認められる。
右記載の「ロータス社」とはそれだけでは英国ロータス社を指すもののようにも受け取られるが、右証拠(甲一四六ないし一四九)によると、右広告には、右記載のほかに、「ロータスの正統モデルとして、世界の評価を与えられたバーキンは、現在も、南アフリカの当時の工場で、ファミリーネームを『バーキン7』と変えて製造され続けています。」、「1983年、亡きコーリン・チャップマンの意志を継ぎ当時のF-1、チーム・ロータスの総帥ヘイゼルチャップマン率いる南アフリカ・ロータス社によって誕生した南アフリカ、ロータス・スーパーセヴンは、」との記載があることが認められ、これらの記載をあわせて見ると、需要者には、右「ロータス社」が南アフリカロータス社を指すことが理解されるものと認められるから、結局、右の「当社販売の正統バーキンセヴンは、ロータス社との契約のもと製作された唯一現存する新車で購入できる正統セヴンです。」との記載は、被告車が南アフリカロータス社との契約のもとに製作されたロータス・セブン類似の車であることを表しているものと解される。そうすると、そのような趣旨の記載が被告車の品質、内容を誤認させるような表示であるとは認められないことは前示のとおりである。
4 以上のとおり、本件広告中には、被告車の品質、内容を誤認させるような表示があるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告が被告車の広告に被告車の品質、内容を誤認させるような表示をしているとの原告らの主張は理由がない。
5 以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの不正競争防止法二条一項一〇号の不正競争を理由とする請求は理由がない。
五 結論
以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 岡口基一)
物件目録(一)
一、「添付写真」に示された、「スパーセブン」の名称で呼ばれるスポーツカータイプ乗用自動車
二、写真の説明
1、写真1は、原告車(一)の正面を撮影した写真である。
2、写真2は、原告車(一)の背面を撮影した写真である。
3、写真3は、原告車(一)の右側面を撮影した写真である。
4、写真4は、原告車(一)の左側面を撮影した写真である。
5、写真5は、原告車(一)の上面を撮影した平面写真である。
6、写真6は、原告車(一)を右前方より撮影した写真である。
三、原告車(一)の各部位の番号の説明
1.ヘッドライト
2a.フロントウィンカー
2b.フェンダーウィンカー
3.前輪カバー
4.前輪タイヤ
5.サスペンション
6.ノーズコーン
7.ラジエーターグリル
8.マーク
9.ボンネット
10.ボンネットルーバ
11.フロントガラス
12.ハンドル
13.エアクリーナー吸入口
14.ガソリンキヤップ
15.後輪カバー
16.ブレーキランプ
17.ウィンカー
18.マークシール
19.バックランプ
20.後輪タイヤ
21.スペアタイヤ
22.スペアタイヤキャリア
23.マフラー
24.マフラーカバー
25.プロペラシャフトカバー
26.座席
27.トランクカバー
28.ワイパー
29.ロールバー
30.前輪ホイール
31.後輪ホイール
写真1.
<省略>
写真2.
<省略>
写真3.
<省略>
写真4.
<省略>
写真5.
<省略>
写真6.
<省略>
物件目録(二)
一、 「添付写真」に示された、 「バーキンセブン」の名称で呼ばれるスポーツカータイプ乗用自動車
二、 写真の説明
1、 写真1は、イ号物件の正面を撮影した写真である。
2、 写真2は、イ号物件の背面を撮影した写真である。
3、 写真3は、イ号物件の右側面を撮影した写真である。
4、 写真4は、イ号物件の左側面を撮影した写真である。
5、 写真5は、イ号物件の上面を撮影した平面写真である。
6、 写真6は、イ号物件を右前方より撮影した写真である。
三、 イ号物件の各部位の番号の説明
101. ヘッドライト
102a. フロントウィンカー
102b. フェンダーウィンカー
103. 前輪カバー
104. 前輪タイヤ
105. サスペンション
106. ノーズコーン
107. ラジエーターグリル
108. マーク
109. ボンネット
110. ボンネットルーバ
111. フロントガラス
112. ハンドル
114. ガソリンキヤップ
115. 後輪カバー
116. ブレーキランプ
117. ウィンカー
119a. バックランプ
119b. テールランプ
120. 後輸タイヤ
121. スペアタイヤ
122. スペアタイヤキャリア
123. マフラー
124. マフラーカバー
126. 座席
127. トランクカバー
128. ワイパー
129. ロールバー
130. 前輪ホイール
130a. マーク
131. 後輪ホイール
131a. マーク
132. サイドミラー
写真1.
<省略>
写真2.
<省略>
写真3.
<省略>
写真4.
<省略>
写真5.
<省略>
写真6.
<省略>
物件目録、(三)
一、 「添付写真」に示された、 「スパーセブン」の名称で呼ばれるスポーツカータイプ乗用自動車
二、 写真の説明
1、 写真1は、原告車(二)の正面を撮影した写真である。
2、 写真2は、原告車(二)の背面を撮影した写真である。
3、 写真3は、原告車(二)の右側面を撮影した写真である。
4、 写真4は、原告車(二)の左側面を撮影した写真である。
5、 写真5は、原告車(二)の上面を撮影した平面写真である。
6、 写真6は、原告車(二)を右前方より撮影した写真である。
三、 原告車(二)の各部位の番号の説明
1. ヘッドライト
2. フロントウィンカー
3. 前輪カバー
4. 前輪タイヤ
5. サスペンション
6. ノーズコーン
7. ラジエーターグリル
8. マーク
9. ボンネット
10. ボンネットルーバ
11. フロントガラス
12. ハンドル
13. エアクリーナー吸入口
14. ガソリンキャップ
15. 後輪カバー
16. ブレーキランプ
17. ウィンカー
18. マークシール
19. バックランプ
20. 後輪タイヤ
21. スペアタイヤ
22. スペアタイヤキャリア
23. マフラー
24. マフラーカバー
25. プロペラシャフトカバー
26. 座席
27. トランクカバー
28. ワイパー
29. ロールバー
30. 前輪ホイール
31. 後輪ホイール
32. サイドミラー
写真1.
<省略>
写真2.
<省略>
写真3.
<省略>
写真4.
<省略>
写真5.
<省略>
写真6.
<省略>
物件目録(四)
一、 「添付写真」に示された、「バーキンセブン」の名称で呼ばれるスポーツカータイプ乗用自動車
二、 写真の説明
1、 写真1は、ロ号物件の正面を撮影した写真である。
2、 写真2は、ロ号物件の背面を撮影した写真である。
3、 写真3は、ロ号物件の右側面を撮影した写真である。
4、 写真4は、ロ号物件の左側面を撮影した写真である。
5、 写真5は、ロ号物件の上面を撮影した平面写真である。
6、 写真6は、ロ号物件を右前方より撮影した写真である。
三、 ロ号物件の各部位の番号の説明
101. ヘッドライト
102a. フロントウィンカー
102b. フェンダーウィンカー
103. 前輪カバー
104. 前輪タイヤ
105. サスペンション
106. ノーズコーン
107. ラジエーターグリル
108. マーク
109. ボンネット
110. ボンネットルーバ
111. フロントガラス
112. ハンドル
114. ガソリンキャップ
115. 後輪カバー
116. ブレーキランプ
117. ウィンカー
119a. バックランプ
119b. テールランプ
120. 後輪タイヤ
121. スペアタイヤ
122. スペアタイヤキャリア
123. マフラー
124. マフラーカバー
125. 座席
127. トランクカバー
128. ワイパー
129. ロールバー
130. 前論ホイール
130a. マーク
131. 後輪ホイール
131a、 マーク
132. サイドミラー
写真1.
<省略>
写真2.
<省略>
写真3.
<省略>
写真4.
<省略>
写真5.
<省略>
写真6.
<省略>
別紙商標目録
<省略>
別紙一覧表1
(注)証拠番号は枝番を省略した。
<省略>
別紙一覧表2
(注)証拠番号は枝番を省略した。
<省略>
<省略>